アニサキス症とアニサキスアレルギー

生きているアニサキスだけではなく死んだアニサキス(場合によってはアニサキスそのものではなく分泌アレルゲン)によっても起こること、といったようにアニサキスアレルギーはきわめて複雑であることが浮かび上がってきた。アニサキス症(特に劇症型アニサキス症)の場合にはアニサキスアレルギーの併発の可能性を検討することが重要ある。

 

 

 

 

アニサキス症

 

アニサキスは主として魚介類の内臓に寄生しているが、一部は筋肉にも寄生しているし、魚介類の死後は内臓から筋肉に移動することが多い。そのため、生の魚介類を刺し身や寿司などとして食べると生きている虫体を一緒に取り込むことがある。ヒトは宿主ではないので虫体は通常は消化管を素通りするが、運が悪いと胃や腸に食い込むことがあり、腹痛や下痢、嘔吐などが引き起こされる。アニサキスに起因するこのような症状をアニサキス症という。アニサキス症は食中毒として扱われており、2015年のアニサキス中毒の発生件数は127件で、病因物質としてはノロウイルス(481件)、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ(318件)に続いて第3位にランクされている。しかし、アニサキス症は食中毒としての届け出はごく一部と考えられており、実際には毎年2,000件以上発生していると見積もられている。

 

アニサキスアレルギー

アニサキスアレルギーは、しばしばアニサキス症と混同されているだけでなく、その感作・発症には生きているアニサキスと死んでいるアニサキスの両方が関与していて複雑である。アニサキス症は古くから知られていたが、近年、アニサキスはIgE抗体を介したⅠ型アレルギーの抗原としても注目されている。2000年以降、アニサキスに含まれるアレルギー誘発物質(アレルゲン)が次々に明らかにされになってきた。

 

 

北方海域〜太平洋のアニサキスが危険!

アニサキスは線形動物回虫目アニサキス亜科のアニサキス属(Anisakis)およびシュードテラノーバ属(Pseudoterranova)に属する線虫で、アニサキス症やアニサキスアレルギーの原因になるのは、主としてA. simplexA. physeterisP. decipiens3種である。日本沿岸の魚介類に寄生しているのはA. simplex sensu stricto(北方海域〜太平洋)とA. pergreffii(日本海〜東シナ海)の2種で、アニサキス症やアニサキスアレルギーの大部分はA. simplex sensu strictoによって引き起こされている。

 

アニサキスアレルギーの感作と発症

アニサキスアレルギーの感作・発症を、どのような抗原をどのように取り込むか、どのようなアレルゲンが関与しているのか、という観点から表にまとめて示す。ある方法で感作されたら発症も同じ方法に限られているわけではないことに注意されたい。例えば、生きている虫体を取り込んで感作されても、発症は生きている虫体はもとより、死んだ虫体や魚介類の筋肉中に分泌されたアレルゲンによっても起こりうる。

劇症型は2度目以降の感染!

アニサキス症には緩和型と劇症型が知られているが、劇症型では胃腸症状(腹痛、嘔吐、下痢など)も激しい上に、じんましんや血管性浮腫、気管支けいれん、アナフィラキシーなどのアレルギー反応が伴う。また、劇症型は2度目以降の感染でみられるとされているので、単なるアニサキス症だけではなく、アニサキスアレルギーを併発していると考えるのが妥当である。

 

加熱調理した魚でもアレルギーが発症!

アニサキスアレルギーの場合、患者によっては虫体が死んだ状態の魚介類(凍結保存した魚介類あるいは加熱調理した魚介類)を摂取しても発症することが報告されている。発症だけでなく、感作も死んだ虫体によって起こると考えてよいであろう。死んだ虫体を食物の一部として取り込むので、感作・発症の機序は食物アレルギーとまったく同じといえる。感作・発症には、死んだ虫体を非加熱の魚介類と一緒に取り込む場合はすべてのアレルゲンが関与することになる。


鶏肉食べてアニサキスアレルギーが発症!

 非常に特殊なケースかも知れないが、アニサキスアレルギー患者がフィッシュミールで飼育されたニワトリを食べて発症した例が知られている。原料魚に寄生していたアニサキス由来の耐熱性アレルゲンがフィッシュミールに含まれており、食べたニワトリに残存していたと考えられている。

 

 

本資料は、食品分析開発センター アニサキスアレルギーより抜粋。

 

http://www.mac.or.jp/mail/161101/01.shtml